レポート取材
都心部の中学校で取り組む、地域に開かれたコンポスト
東京都渋谷区にある『渋谷区立原宿外苑中学校』では1年半前から、学校給食で出る野菜くずなどを活用してコンポストで堆肥づくりを行っています。地域に開かれた活動のため、先生や生徒以外にも、保護者や地域の人なども参加して、緩やかなつながりのある場にもなっています。


緩やかに続くコンポスト活動


JR原宿駅から徒歩5分ほどの距離にある『渋谷区立原宿外苑中学校』。午後3時ごろになると、先生や生徒、近所に住む保護者らが、給食室横の大きな箱が置いてある屋外スペースに集まってきました。

この大きな箱の正体は「コンポスト」。生ごみなどの有機物を微生物の働きで分解して堆肥をつくるための道具です。この堆肥をつくる活動を、同中学校では1年半前から行っています。同じ渋谷区で堆肥づくりに取り組む任意団体『コミュニティガーデンあいラボ』(以下、あいラボ)代表の美喜子さんも参加して、生徒や保護者と話しをしながら作業を一緒に進めていました。

平日は、同校校長の駒崎彰一さんや副校長らがコンポストの管理を行い、2週に一度ぐらいのペースで作業日を設けています。地域に開かれた活動のため、興味のある生徒が立ち寄るほか、生徒の保護者、地域関係者、『あいラボ』メンバー、別の地域でコンポストに取り組む人なども参加。

野菜くずを刻んだり、そのくずを土に混ぜたりとそれぞれが自主的に作業を進めていきます。取材に訪れた2024年3月には、フランスのコミュニティガーデンの師、ジュリアン・シャムルワさんから美喜子さんに贈られた日本で未発売と思われる道具「ブラスコンポスト」で、堆肥枠内の堆肥の切り返し(混ぜて空気を送り込む作業)をしていました。コンポスト専用に作られた道具の使いやすさに、「スコップとは全然違う」と盛り上がっていました。さらに、堆肥枠を外して小さな耕運機でさらに切り返しをして1時間ほどで作業は終了。その日は初めて参加する生徒もいて、耕運機での作業も楽しそうに行っていました。


きっかけは麻袋での大根栽培


このコンポストの活動が始まったのは、中学2年生が技術科の授業で行う大根栽培がきっかけでした。以前はビニール袋をプランターの代わりにして大根を栽培していましたが、この周辺地域にあるアパレル関連の会社から、繊維を使った袋を使用して土にかえす取り組みについての相談があり、衣料品等の循環を目指す『天然繊維循環国際協会』との協働によって、ポットサイズに加工された麻袋を利用して大根を栽培しました。

そして、栽培を終えた麻袋を土にかえす段階となり、コンポストの講座などを行っていた美喜子さんを駒崎さんは同協会から紹介されて、どうしたら良いかを相談しました。渋谷区の給食は全校自校式で野菜くずなどが日々学校で捨てられている状況だったことも踏まえて美喜子さんがコンポストを勧めたところ、駒崎さんは即同意。「海外の学校を視察した際にコンポストが当たり前にありましたし、学校でのさまざまな取り組みを通じて子どもたちが環境問題について考えるきっかけをつくることが重要だと思っていたため、取り入れることにしました」。

予定していたスキー教室が急きょ中止になり、駒崎さんは時間的な余裕ができたことから、校内の廃材をかき集めて、以前に鶏小屋を建てた経験を生かして木製コンポストをたった3時間で製作しました。「校長先生がたった数日のうちにコンポストを、その次に学校を訪れた時には樹脂製の堆肥枠を用意してくださっていて。スピード感に驚きました」と美喜子さんは振り返りました。

2023年1月末に第一回目の作業を開始。大根栽培に使った麻袋をハサミで地道に裁断した後、微生物資材(微生物の働きを利用した土壌改良材)と大根栽培に使用した土、裁断した麻袋を交互に木製コンポストに入れて、さらに微生物が活発に活動するように水分を加えました。その後は、給食の野菜くずや近くのコーヒー店から出るコーヒーかす、米屋から出る米ぬかを回収して入れたり、近隣住民や保護者が持参した生ごみを入れたりして、地域循環にこだわった堆肥づくりを進めています。


不安や悩みの解決にもつながる場に


高校生の頃から地球環境に対する関心が高かった美喜子さんは、以前新潟県の佐渡島に暮らしていた頃に行ったことがあったコンポストを、その後東京に引っ越してきてから都心部でも取り組みたいと思いを強めました。そして、さまざまな行動を取るうちに『天然繊維循環国際協会』や駒崎さんと出会い、現在の活動につながりました。

コンポストづくりについては、フランス・パリで暮らす作家でコミュニティガーデン運営者ジュリアン・シャムルワさんに教えてもらいつつ、試行錯誤しながら進めています。

「パリは東京23区の6分の1の広さに約900のコミュニティコンポストがあり、活動が盛んで、学ぶことがたくさんあります。中学校の活動では、2週間に一度顔を合わせることで緩やかなつながりが生まれています。参加者からコンポストのこと以外の悩みを聞いたり、この活動を楽しみにしている生徒から『入れたものが次に来た時にはなくなっているのが面白い。楽しい』という言葉を耳にしたりすることが、うれしいです」と美喜子さんは話します。

コンポストの活動の今後について駒崎さんは、「渋谷区は『未来の学校』という学校の在り方(「新たな学びの場」「環境への配慮」「地域コミュニティの拠点」の3つの柱がある)を目指しているため、生徒や保護者、そして地域関係者などが自らの意思で参加できる地域の活動にしていきたい。今後も継続していくため、カリキュラムにも組み込みたいです。総合的な学習の時間の授業などで興味のある生徒自ら地球環境について探究していける環境を整えたいです」と話しました。

また美喜子さんは「笑顔と資源の地域循環を大切にしています。笑顔は人とのつながり、資源は未利用資源を主に指しています。生ごみで堆肥を作り、野菜を育て、食べて残ったもので再び堆肥をつくることで、自然の循環が感じられます。コミュニティコンポストを通して地域に知っている顔が増え、日々の喜び、防犯・減災などの社会課題の解決にもつながります。『原宿でもできるんだ!』と知ってもらい、この活動を全国に広めたいです」と話しました。

地球環境を肌で感じながら、さまざまな不安や悩みの解決にもつながる場づくり。コミュニティコンポストがあることで、誰にとっても心地の良い社会をつくっていけそうです。