コラム
農業を身近に感じる体験

農業を始めるには、農地の所有が必要だと思う人も多いのではないでしょうか。実は農地を買わずとも、農業を始めることができるのです。今回は、家庭菜園よりも大きな規模で本格的に農業体験ができる方法をお伝えします。



「市民農園」「農業体験農園」について


農業体験は、食や農業への関心を高めるだけでなく、都市住民の心身のリフレッシュ、生きがいややりがいづくりにも一役買っており、関心が高まっています。農業を身近に体験できる場所として、「市民農園」「農業体験農園」が全国各地に開設されています。それぞれの特徴を見ていきましょう。


ちなみに東京都内には、市民農園443か所、農業体験農園141か所が開設されています(2023年3月末時点)。


まずは自治体やJA、農家、NPO、企業などが開設する「市民農園」です。利用者は10~20㎡程度に区画された農地を借りて、農作業を行います。主な特徴を以下に書きます。


・借りている期間は基本的に全工程を利用者自身が行うため、農業指導は受けられない

・作付けする野菜の種類や作業などは、利用者が自由に決めることができる

・苗種や肥料、農機具などの必要資材は利用者自身が用意する

・農産物の品質は、利用者の計画や技術次第

・収穫した農産物は、利用者のものになる。だだし、営利目的としてはいけない

・利用期間は1~3年が多い


次は農家やNPO、企業などが開設する「農業体験農園」です。利用者は30㎡程度の区画の農地で、農作業を行います。主な特徴を以下に書きます。


・農園主が講習会などを通じて、利用者にきめ細かい指導を行う

・作付けする野菜の種類や作業は、農園主が指示をする

・種苗や肥料、農機具などの必要資材は農園主が用意をする

・利用者は高品質の農産物が収穫できる

・収穫物は利用者に販売される ・利用期間は1年以内が多い



「市民農園」「農業体験農園」に向くのはこんな人


先ほど「市民農園」と「農業体験農園」の特徴について説明しました。しかし自分はどちらの農園を利用したらよいか、迷う人もいるのでは。次は、これらの農園を利用するのに向いている人について説明します。


「市民農園」の利用は、農業についてある程度の知識と経験があることが前提になります。基本的には、農業指導はしてもらえないからです。具体的には、こんな人が向いています。


・年間を通して、農作業に多くの時間をかけられる人

・作付けする野菜の種類や作業を自分で決めたい人

・種苗や肥料、農機具などを自分でそろえたい人

・農作業で分からないことは、自分で調べて解決できる人 ・農作業だけでなく、ごみ処理や道具の手入れなども自分でできる人


自由にできる反面、責任も伴うということですね。


一方「農業体験農園」は、農業初心者向きです。農園主(専門家)から指導を受けて、農作業の知識を身に付けたい人にはピッタリです。具体的には、こんな人が向いています。


・忙しくて農作業にあまり時間のかけられない人

・農園主から説明会や講習会などで、丁寧な指導を受けたい人

・種苗や肥料、農機具などを自身で用意するのは面倒で、手軽に始めたい人

・作付けする野菜の種類や作業を自分で決められない人

・ごみの処理や道具の手入れなどまで自分でできない人


農園主の手厚いサポートを受けられますが、自由に作物を作れなかったり、決まった講習会や説明会には参加必須だったりと、ある程度の制約はあります。また農作物を育てる以上、週1回は来園する心構えでいるようにしましょう。


どちらの農園を選ぶのか、自分の農業の知識や農作業に関われる時間を判断材料にしてはいかがでしょうか。「農業体験農園」から始めて、慣れたら「市民農園」に挑戦するというのも一つの方法です。


それでは「市民農園」「農業体験農園」の利用の手順を説明します。


①農園を探す→自治体のwebサイトや地元の広報誌などで探す(利用が地域住民限定の農園もあり)

②開設者に問い合わせる→募集期間や申し込み方法、利用条件などを問い合わせる

③応募する→人気の農園は応募が殺到して抽選になることも

④開設者と利用契約を結ぶ



農業体験の具体例


「市民農園」「農業体験農園」の紹介をしましたが、実際どのような体験ができるのでしょうか。一部を紹介します。


▶︎滞在型市民農園

先ほど説明した「市民農園」は、「日帰り型」と「滞在型」の2種類があります。都市部やその近郊にある「日帰り型」が大半ですが、都市から離れた場所に位置する「滞在型」も一部あります。この「滞在型」について説明します。


「滞在型」は文字通り、週末などを利用して泊りがけで滞在します。農地とコテージ(ラウベとも呼ばれる)を1区画として年単位で借りて、四季を通じて農業体験を行います。それぞれは孤立しているわけでなく、全体でコミュニティを形成しています。利用者同士の交流を大切にしており、さまざまなイベントや講習会があります。


地域に根付いた体験となるため、住民とのコミュニケーションを大切にすること、農業に対し真摯に向き合う姿勢が欠かせません。その代わり「日帰り型」には少ない、地域住民による農業支援や支援があります。

移住を考えている人が試しに借りる場合もあるなど人気があって、新規募集をなかなか行わない農園もあるようです。


▶︎駅ビルの屋上にある農業体験農園

農業体験農園は、最近は都市部にもあります。変わったところでは、駅ビルの屋上にも。こちらの場合、屋上緑化用の軽量土壌を使用します。水はけと保水性に優れているため、土の深さ約20cmの畑でも大根やかぶなどの根菜類も育つそうです。


その他にも、初心者が長く楽しく野菜作りを続けられるために、さまざまな工夫をしています。スタッフが常駐して利用者に野菜作りをアドバイスをしたり、水をまいたり、また農地の土の補充といった補助作業を行ったりします(基本的な手入れは利用者が行う)。


種苗や肥料、農機具、長くつやジョウロなどの道具類も借りることができます。コインロッカーも設置されているので、着替えを持参すれば会社帰りや買い物帰りのついでに、手ぶらで農作業に参加することができます。


▶︎ボランティア+αで農業を体験

ボランティア+αで農業を体験することもできます。これらは、農家の繁忙期に未経験の仕事を体験したり、地方の人々と交流したりすることで、人生の貴重な体験となることを目指しています。


これには二通りの方法があります。一つは有給で宿泊費は無料ですが、交通費はなく基本自炊をするスタイル(手元に残る給料は少額)。もう一つは、無給で働いて労働力を提供する代わりに、宿泊費だけでなく食事や知識・経験も提供してもらうスタイルです。どちらも稼ぐことが目的でなく、一度農場で暮らしてみたい、または農業体験したい人にはおすすめです。


農業を身近に感じる体験は、いろいろあります。家庭菜園から一歩踏み出して、実際に農地に足を運んで本格的な農業を楽しんでみてはいかがでしょうか。そこからまた新たな興味関心が生まれるかもしれません。



文 / 松原 夏穂